57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

お金を出すボタン

私は自分の身の回りにいる人とはなるべく争い事をしたくないというのが本音です。だから私は上司にはよく好かれました。そのかわり同僚からは嫌われていたと思います。誤解のないように、もう一度言っておきますが、私は好きで上司から好かれていたのではありません。私はイヤでイヤでたまらないのですが、お金の為に死んだふりをしていたから好かれたのです。

(「私のサラリーマン時代」蛭子能収


 お金のいくらでも出てくる穴がそこらじゅうにある。ただし穴からお金を出すには、投入口にお金を入れてボタンを押す必要がある。100出すには101とか102とか、とにかく出したい額より多く入れてからボタンを押さなきゃならない。世界はお金の話に関する限り、それくらいシンプルにできている。その単純明快さの中に町をつくって、町の複雑さの中にシンプルなしくみをとけこませ、編み込み、死角に回り込ませ、いわばお金を投入する口と、押すボタンと、お金の出てくる穴を人生の様々な場面に切り抜いてそれぞれの景色の模様にして人は暮らしている。
時には出し入れされるコインや紙幣の柄そのものに、このしくみが描かれていることもあるだろう。そのときお金に印刷された肖像画はあなたの顔をしているし、透かしにはそれより少し老け込んだあなたの顔が、鏡のように不安げな目で覗いているのだ。