57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

花とナイフ

わたしが住みたがる家は、たいてい軒がかしいでいて、かわらはくずれかけ、庭には雑草がおいしげっている。ときには、古い家の窓が本物の船からとってきた丸窓だったりして、わたしをよろこばせる。

(「ふしぎな風景」鈴木いづみ

 

目の前にいる人とは、文字どおりの意味ではない。その意味は社会が刻々と変えていくけれど、目の前にいる人に語りかけるとき、言葉は地面に投げ出した花束のようにほどけている。そのつもりがなくとも、胸や喉に突きつけたと取られたら花束でもナイフに変わるからだ。

遠くの人に向けた言葉は、時には地面に突き立てたナイフのようなものかもしれない。忘れた頃にその場所を通りかかるあなたが、思わず胸に手を触れ立ち止まるだろう。だが片手で握れる小さな墓標はあなたのものではないし、私の墓でもない。地面に刺さったナイフはナイフ自身の墓にしかなれない。読書は親しい人の墓参りよりはずっと、迷路のように荒れ果てた霊園を散策することに似ている。