57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

スクリーン

東京で最も壮麗な地下食堂といえば、東大本郷の安田講堂地下にある地下食堂だと思う。とにかくだだっぴろいのだ。地上から地下へ向かうときの何とはない暗さもスリリングだが、この地下食堂にはいると中空に長い橋(ブリッジ)がわたしてあって、そこを越してさらに地下へ下る感じが、ピラネージ描く牢獄図じみていて、なかなか趣きがある。

(『異都発掘』荒俣宏

 

このところ、わたしたちはますます「胎内に埋葬される」ことに魅了されつつあるのかもしれない。わたしたちがおぼえているのは、墓から掘り起こされ、悠久のまどろみに水を差された瞬間からのちのことばかりだ。このあかるさに目が慣れるまでのしばらくは、おそらく地中でむさぼっていたはずの夢の続きがまわりを覆ってくれていた。その薄暗い霧がほどけ、陽の光とともに瞳に飛び込んできたものはわたしたちを次々と失望させ、うちのめし、切り刻み、取り返しのつかない幻滅をもたらしている。わたしたちはおぼえている。こんなはずではなかった、と忌々しげにつぶやくに値する根拠として、あの霧のスクリーンに映し出されていた魔術的な光景を。そうと口に出すものばかりではないが、わたしたちの望みはほんとうにひとつの場所にあると信じていいはずだ。この世界ごと土に埋め戻され、無傷な力を独り占めしていた時代へとそれぞれの血肉を抱きしめながら帰省していくこと。わたしたちをけっして生み出そうとしない慈悲深い子宮として、地面がぶあつい瞼のような黒闇へと、このみにくく育ちすぎた体を健啖に食らい尽くしてくれることを。