57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

たどり着いた二階

8階、8階、8階、よんできて観覧車 しばしばも贅肉のみずうみ/瀬戸夏子

『そのなかに心臓をつくって住みなさい』

 

作品というのは「二階から二階へ上る/下る階段」であるべきだと思う。でもたいていの作品は三階に上るか一階に下ってしまう階段だし、ひどいのになると四階や地下室へと足を運ばせてしまう。むろんこの世が二階なら、地下室も一階も、三階も四階も作品の中にしか存在しない。だからまったく無責任きわまりない話というだけでなく、これは麻薬を売りつける人間のやり方だ。
二階から階段を上りはじめた私が、階段の先でふたたび二階にたどり着くこと。そのとき私は「かつていた二階」と「たどり着いた二階」のふたつを同じ平面で生きはじめることになる。作品がこれら「ふたつの二階」を取り結ぶ階段でないなら、どれほど魅力的な行き先が示されたにせよ、私は結局どこへも抜け出せず、行き止まりで階段を引き返してくるしかない。そのときの苦み、足取りの重さに付け入るように、作品はさらに「地下二階」だとか「屋上」の絵を物々しく掲げた階段を売りつけようとするだろう。
だがこの世に真に実用を逃れる階段があるなら、それは二階から二階へたどり着く階段のことである。最深や最上へ向けての移動など、実用の世界がその余暇に見せるすてきな夢に過ぎない。