57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

例外の仕事

一日中考えてる事は
辞める理由だけだ
夢も希望もない

(「血痰処理」逆柱いみり

 

かなりの人は仕事がつらそうな顔をしている。実際にそれを口に出していう人も多い。仕事がつらい理由の何割かは「それが仕事だから」という身も蓋もないところに本当の根っこがありそうだから、仕事をしなくても生きられる境遇に恵まれた少数者以外、このつらさとすっぱり縁を切るのはむずかしいのかもしれない。
だが、世の中にはざっと見渡しても無数の仕事があり、それらの仕事はさらにべつの仕事を自分の蔭にかくしているだろう。
蔭にかくれているほうの仕事も、さらにまたべつの仕事を蔭にかくしている。その仕事もまたべつの仕事を蔭に……という「仕事の森」の奥深くへと分け入り、この社会の最果ての秘境的な位置になお人に経済の呼吸をさせている「仕事」があるとすればどうだろうか。そんな位置は普通に考えれば人工知能とか機械の領分で、生身の人間に入り込む余地はないのかもしれない。だがこの世の日常の景色とは、偶然をつみかさねた平均値のごときものである。たまたま目の前にひらけた隙間を道と勘違いして、そのまますいすいと最奥まで迷い込んでしまった「例外」の人も皆無とはいいきれない。
それが楽しいとかつらいとか、退屈だとか充実してるとか、給与に見合うか見合わないか、そういう価値判断の彼岸に、ある種の静謐な悪夢のように君臨する仕事。人目に触れず、つまり偶然その位置に迷い込んだ従事者以外に知られず存在する奇景のような仕事の可能性である。
「任意の街路樹の葉っぱにひたすら文字を書きつける日と、書きつけた街路樹をひたすら巡る日が交互にあり、文字の書かれた葉っぱが落ちていたら拾い集めて週末ごとに〈それらが意味ある文章になっていないか〉を並べて検証する」
最深部よりもずっと手前、求人情報が出回っている仕事の蔭の蔭の蔭、くらいの位置にならそんな仕事があってもおかしくないように思う。この仕事についた人が実際に何を思うかは想像に委ねるしかないが、仮に充実にはほど遠い毎日だったとしても、われわれが言い交すのに慣れたあの「仕事のつらさ」とは異質な経験をいくらかはしていることになるのではないか。