57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

螺旋

巻貝を何個もひろっていらっしゃい それがわたしのやさしさだから/正岡豊

「四白集」

https://drive.google.com/file/d/1_rv5D5b8XURscW82tWp03B0q8QnGHc8C/view

 

二階にいると二枚貝のことを思い出してしまう。
できの悪い連想だとわかっているが、三階へ行くことは三枚貝を思い出しそうになる。もちろんそんな貝のことは思い出せない。ありもしない貝を一からあたらしく頭に描き出そうとする抵抗を感じて、そこでぴたりと足が止まってしまう。
だからわたしが行けるのは二階まで。
それ以上の高さの階は、空想上の生き物のように手足の届かないまぼろしの階だ。
昨日までわたしはそう思っていた。

この建物(南国の白い小さな、個人経営のホテルを思い浮かべてほしい)の中心をやや奥に外れたところを、縦にくり抜いた筒状の空間が通っている。そこに竜巻を凍らせたようなうつくしい真珠色の階段があった。
わたしは階段を見上げ、なるほどと思った。螺旋の螺とは巻貝のことではなかっただろうか。
三枚貝も四枚貝も見つけられずに終わる世界に、わたしたちは巻貝を持っていたということ。
それだけでもう、すべて許されてしまっていいのではないのかと思う。