57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

輪郭

私たちは、ある国に住むのではない。ある国語に住むのだ。祖国とは、国語だ。それ以外の何ものでもない。

(『告白と呪詛』シオラン 出口裕弘訳)

 

地図とは、空気も脂肪も注入することなくわれわれを膨らませるもっとも効率的な装置だろう。地図が読めるようになることは、膨らみすぎて人生や社会からはみ出した場所から地上を眺めた経験をもつということだ。膨らみかた次第ではわたしの輪郭が国境の輪郭をのみこんでしまうけれど、そのことはけっしてわたしを国境から自由にはしない。人生や社会の外、さらにおそらくは地球の外でさえわたしを囚え続けるものがあることの承認を迫られる。さまざまな境界線はわれわれの脳に刻まれた消えない傷の模様の地上への投影であり、同じ傷を紙の上に投げかけたものが地図だとすれば、傷と紙の距離や角度を狂わせ、紙の上で傷を増殖させたところに書物の起原を想像してみるのもいいかもしれない。もちろん短歌にも「地図だったときの痕跡」があるはずだ。