57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

書き足す町

韻文として構想されながら、事後的にただ一箇所でリズムの乱れている複合文、およそ考えうるもっとも美しい散文を生み出すのは、そのような文章である。

(『この道、一方通行』ヴァルター・ベンヤミン 細見和之訳)

 

ある町にまとまった年月暮らせば、突然櫛の歯が欠けるように更地になった土地の前歴は思い出せなくとも、その土地にこれからどんな用途が選ばれるべきなのか、どのような家または店が建てられるのがふさわしいかを正確に口にすることはできる。

空間に行きわたった意識が、全体からの逆算としてこの穴埋め問題の解答に人をみちびくのみならず、町に暮らした歳月そのものが助走となって何行も先の升目を唐突に埋める文字が現れる。

わたしたちは手や口が勝手にうごきだす快楽を知っているし、答えに先回りする権利に恵まれていく目を持つことを、ひそかに誇ってしまいもする。そのことを恥じることもできる。恥ずかしさのあまり何も考えられなくなり、知りえたそばから答えを書き留める指の速さに、自涜のように溺れてしまうことも。