57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

未来

百年で変わる言葉で書くゆえに葉書は届く盗まれもせず/我妻俊樹

『誌上歌集 足の踏み場、象の墓場』

 

わたしが一度でも心で考えたり味わったことのあるものを歌にうつすと、それを歌も考えているように見えるが、その考えはわたしの考えなので、わたしが歌を見ているときだけ歌がそれを考えているように見える。この場合の歌は鏡のようなものだ。

だからわたしがまだ一度も考えたことのないことを、歌自身が考えはじめなければならない。

歌が自分で考えはじめ、わたしが見ていないところでも考え続けるだけのものを歌に与えるのが、作者の役目だ。このとき歌とは小さな脳のようなものである。ただひとつのことだけを考え続けるためにある脳。そのような歌の呟きに耳をすませば、昨日と今日ではわずかに違うことを言っているはずだし、十年、二十年後にはまるで別人の話に聞こえるかもしれない。

当の作者にさえ理解できない言葉が歌から聞こえてきても、そこにあるのは過去の自分との距離ではなく、未来の自分から語りかけられ途方に暮れる経験なのである。