57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

アイスココア

きいてみてわかったことは、その話を知っているものが、意外に多いということだった。――とすると、かなり有名な話にちがいない。趣味で怪談を集めたこともある私が、どうして今まで知らなかったのだろう?

(「牛の首」小松左京

 

他人の名前で町を歩いてたら、街路樹に声をかけられた。いかにも街路樹に声をかけられそうな名前だとは思ってたのだ。ぼくは無視して通り過ぎ、深夜営業のカフェにとびこむとアイスココアを頼んだ。窓の外にさっきの街路樹が見える。あんなに遠くにあるのに、まだ話しかけたそうにしている。アイスココアは氷がいっぱい入ってて、途中からは水っぽくてまるで味がしなかった。氷が融けたせいなのか、他人の名前で飲んでるせいなのか、ぼくにわかるはずがないだろう。名前を呼ぶ声は町にあふれている。だから呼ばれるかどうかは、もっぱらこっちの名前にかかっているのだ。