57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

歌には裏があるよ

 でも確かに、まみにはどこか時間感覚を狂わせるところがある。一緒にいると、目の前の出来事が想い出か未来の予兆のように距離感がブレて感じられるのだ。

(「手紙魔への手紙」穂村弘

 

みんなが少しずつ短歌のまねをして、クリームソーダウスターソース、世田谷通り、月極駐車場が誰でも読める字で印刷されて、だんだん短歌に囲まれていく。

「きみのしわだらけの服は黄色い。だけど夜道を歩いてくるきみはキンモクセイの匂いと区別がつかないほど暗くて、何年も前にのみこんだコーラの炭酸や食用菊や焼菓子をまだ周りに連れて歩いてるみたいだった。そのまばらな足音」

月には二階があっていつもテナントを募集してるって、きみの歌に書いてあった。だけど歌には裏があるよ、めくると全然違うことが書いてあるからめくってみなよ、とマンションの全部の窓を鳴らして風が云った。シールのように貼りついて、台所の床みたいなページから剥がれない歌はどうしたらいい?