「離歌と書いてリジンと読むんだ。おわかれの意味だよ」
(『夢日記』山中千瀬)
わたしに思い出してほしいなら、あなたはわたしの名前を呼ぶべきだ。人は自分の名を呼んでくれた人のことはけっして忘れない。わたしの名前を呼ぶことで、あなたは最初にわたしの名前を呼んだ人のいる列にくわわることになる。わたしはたいていの場合、その列にいる人たちの中からしかえらべないのだ。
ときには空耳で、わたしはあなたに名前を呼ばれたと思い込むことがあるはずだ。その、風のいたずらのような、にせの呼びかけにうっかりこたえてしまったとき、わたしもまたあなたの名を呼んだ人たちの列に並ぶことになっただろう。