出口と入口
ぼくたちは婚約を解消した。
「じゃぼくたちはこれで」
男はカラになったグラスを置いて、ぼくの婚約者だった女と店を出た。
(「時間をかけた料理」津山紘一)
たいていの出口はたんに入口を裏返しただけのものだ。だから入口さえしっかり握りしめ手放さなければ、その気になればいつでもここから出られるはずだときみは思う。だがかつてきみを招き入れた輝かしい入口だったものは、気がつけば手の中で朽ち果て、くずれ落ちた木枠の一部に変わり果てている。招かれた家から無事帰ることができるのは気の短い粗忽者だけだ。そのようにしてきみはまたいつものように閉じ込められたのだ。