57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

人形の国

「……俺は今だと思った。この好もしい姿を永久に俺のものにして了うのは今だと思った」

(「白昼夢」江戸川乱歩

 

人間がせわしなく動き回る理由について、考えてみることにしよう。人間は写真に撮ってもおとなしく人間の姿を保っているし、名前なり顔なりを石に刻むこともできるし、それを当人が土に溶けたのちもかわりに会いに来るしるしとして、地面に建てておくことも現にしている。つまり人間は本来は壁の上に静かに止まっている甲虫の背を思わせる、つつましいお面のごときものなのだ。だがお面のうしろには落ち着きのないやつらが隠れていて、それが騒ぎ立てるものだから人間がせわしないかのように感じる。いくら整然とならべてもうしろで暴れてめちゃくちゃにするものが必ずいる。
わたしたちがここからいなくなれば、人間の世界は人形の国のように永遠の理想の配置を完成させることだろう。