57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

時計の世界

腕時計をしたままだったので、夜の十一時であることだけはわかった。

(「奪われた家」フリオ・コルタサル 寺尾隆吉訳)

 

腕時計を嵌めている人たちを見ると、時計に目を落とすたびその人が煙のように文字盤に吸い込まれていくのがわかる。どう考えても、時刻を読み取ろうとする人は時計よりずっと小さくなければならないのだ。日に何度も時計の内と外を往復する人たちが、最近ではめっきり少なくなったと云われている。おかげで街は近頃妙に混雑し、他人と肩や膝がぶつかり帽子が飛び、鞄が転がるほど窮屈をきわめていないだろうか。
我々はもはや、自らをこの唯一の文字盤上の定住者と決め込んでしまったのかもしれない。