57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

鏡文字

唇で君の右肩上のほうに字を書けと言われ、気持ち悪いよ/片岡聡

『海岸暗号化』

 

鏡文字で書かれている言葉だけが信用できる。鏡文字で書かれ、紙に映されることで再反転して立っている言葉は、文字列の逆流のけはいを目の裏が受け止めるので、目の奥だけが回る。その井戸の底の震えのような、小さな酔いの自覚こそが信用できるしるしだ。何が書かれていてもいいし、どんなふうに書かれていてもかまわない。その話はべつの機会にいくらでもしてしまえるだろう。ただ鏡文字としていったんは書かれ、紙が鏡となってそれを裏返していることに目が気づく言葉だけが、信用に値し、連れていくことができる。それ以外はみんな、ここに置いていってしまってかまわない。