57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

口にする口

 その前に、世の中の今まで駄目になった女の子の名前をあげてみようか。その中にいかにも、うってつけって感じの名前があるかもしれないからね。
 例えばテッド・バンディに殺された女の子たち。アメリカの女の子たち。

(「ノート(ある日の)」岡崎京子

 

よくないことを口にするために、自分のではない口がいるよね。よくないことって、よくないことだよ。きれいな花を食べ尽くす虫を皆殺しにしたいこと。陽の当たる曲がり角のむこうには、黴臭い、私より不幸な人の家があることの喜び。大好きな小説家への嫉妬。手に入らない世界は持ち主ごと燃えてしまえばいいこと。ゆうべ見た、子供たちを塔のてっぺんから泣きながら突き落としていく夢。落ちぶれた歌手の必死な話題づくりに、嘲笑するふりして耳を塞いだこと。電話のむこうの声が時々「おまえだけは救える方法がある」って聞こえること。部屋の床を埋め尽くす本と洋服の下に埋まってる、両親の全裸死体。
こういう話が遠くのスピーカーから流れるお昼のニュースみたいな音楽の似合う場所で、結露したコップを前にみんなに見せる用の私の生活がつづられていく、土曜日。猫のようにミルクを舐めながら、この舌先が白いうちにあらゆる道徳的な話を聞かせてあげましょう。「自分を犠牲にして仲間たちの命を助けた尊い七面鳥が逃げ遅れ、暴れる炎に呑み込まれて見事な丸焼きになりました。その美味しいことといったら、ひと口ごとに頬っぺたが落ちるほど、じつに期待どおりの出来栄えだったのです!」