57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

こまやかな社交

「すっかり、そう見えるでしょう?」と、その兎は嬉しそうに咽喉をクックッと鳴らしながら言った。「でも、本当は人間なのです。多分。どっちでもいいような気も最近ではしますけれど」

(「兎」金井美恵子

 

短歌はどれも、誰かの遠回しな自己紹介文なのだろうか。そこに書きこまれていることも、書き落とされていることも、その誰かが読まれたがっていたり、「あえて書かれていないということ」を読まれたがっていると私は気づくべきだろうか。その誰かとは誰なのか。作者と読者の間にこまやかな社交が成立する、ある特殊なジャンルの話だと遠くから笑って見ていれば済む話だろうか。なぜ作者は、読者は、作品の話にあんなに傷つくのだろう。傷が傷として独り歩きをはじめたとき、それが刻まれた皮膚があわてて後を追いかけるという滑稽な光景を、今日も、あるいは明日も見続けることに、私は奥歯の不審なうずきのように今度もきっと耐えてしまえるはずだ。