57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

歩く金魚

縁日には、おかまの聖子ちゃんが母さんと来ていた、蜻蛉柄の浴衣で/山崎聡子

『手のひらの花火』

 

浴衣は金魚っぽい。夏の風物詩どうしであることからの連想や、縁日の金魚すくいの水面を挟んですくう側とすくわれる側、であることの不均衡な鏡像めいた関係がそう思わせるというより、そのような関係が浴衣のデザインをより金魚に似せてきた歴史があるのではと、調べたわけでもないのになぜか確信していたりもする。
ところで、色付きの紐で口を縛られたビニール袋に金魚が水ごとつめられ、縁日の人混みを持ち運ばれるさまの小さな美しさは「金魚が空気中を泳いで行き交う」という多くの人々の夢にすまうイメージの原型なのではないだろうか。たしかに金魚は屋台のあいだの人混みをひらひらと歩くし、人混みを離れ夜道に足をのばして私の家までやってくる。その同行者をつとめることのくすぐったいような誇らしさは、数日と経たず腹を見せ水面に浮いてしまう命の痛ましさとともに、私たちのかけがえのない思い出である。