57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

縦と横

「人は、いつも引き裂かれている。上半身は空に向かおうとし、下半身は土に根を下ろそうとしている」

(「引き裂かれて」岸田今日子

 

縦に長いものは人間に似てしまう。縦長のシルエットをもつものは、それが人間なのかどうか内容を十分吟味される前に、輪郭だけでいきなり人間という前提で話がはじまっていることがしばしばある。
短歌が一般に表記上「縦に長い」外見を持っていることは、われわれの無意識がそれを「人間かどうか」みきわめる手続きを飛ばして、そこに「どんな人間がいるのか」の話をいきなりはじめることに力を貸していると思う。
ネットの横書きの環境を故郷とする歌がふえていても、それらが紙に籍を移したとたん一様に立ち上がり縦長の輪郭に収まるところをみれば、さかのぼって横書きの一首は「横たわっている人」として穏当に一人の輪郭に似ていたといえるのかもしれない。
立ち上がっても人間にはみえない。あるいは人間のふりをしたにせものにしかみえない。そのような歌がまどろみの中で人の輪郭をやぶって次々と生じてくる環境に、いまだ横書きはたどり着いていないと思う。歌には今もなお横たえられてもくっきりと上半身と下半身がある。横書きであることが、縦書きの歌にゆるされた少しばかり「楽な姿勢」の位置にとどまっている。