57577 Bad Request

故障中のエレベーターで旅をする

映画は裏がえっている

坂を転がりながらできるバイトでもさがそうか

(「神代辰巳のナンバースリー」安川奈緒

 

映画は何度も裏がえりながらここにやってくる。画面をいくらみすえてもそこには反転した回数をさかのぼるための手がかりは残されていない。少なくともわたしという無能な探偵にとっては。映画が裏がえりながら身にまとってきたものに包囲されてしまって、そのどれかにはいつも背を向けていることの後ろめたさ、とは映画をどんなに小さな画面(たとえば手のひらに載るほどの)におさめて眺めても消えるものではない。
だから映画に時間が大きく一定の方角へ流れていることは、その先にはこの砂の世界がくずれ落ちていく穴があるんだと思わせてくれる救いのようなものだ。包囲は完成することなく解かれつつあり、解かれながらまた包囲されようとする環境に押し流されるわたしが恐怖のあまりぐっすり眠ってしまっても、穴はすべての時の砂を吐き出したのちにわたしの世界と一致してこの眠りの輪郭になっているはずだと信じられる。映画を心のどこかで舐めきっているところがなければ、映画に払おうとする金は手の上で全部珍しい模様になってしまう。